小信号トランジスタ

汎用品として使われる小信号トランジスタ、日本では、

などが使われてきたが、2010年ころから日本の電子部品メーカではリード足を使った小信号用の半導体は作られなくなり、これらの定番品も廃盤、入手難となってきた。

2023年現在も製造しているのは、イサハヤ電子 2SC5398 / ISA1995AS1、2SC5395 / ISA1993AS1、ISC3244AS1 / ISA1284AS1 など。

小信号トランジスタには盲目的に東芝 2SC1815 / 2SA1015 を使うという方も少なくないだろう。すでに手持ちがある場合はそのまま使えば良いと思うが、これから電子工作を始めようという方は、無理に 2SC1815 / 2SA1015 を探す必要はない。同品種はたしかにこのクラスの中では優秀なトランジスタではあるものの、電子工作で使われてきた理由はアマチュアでも入手性が良かったからであり、わざわざ値上がりした古い在庫品や、セカンドソース品を買うほどの性能ではない。

結論を先に述べると、ロームのオリジナル品、2SC1740S / 2SA933S がいまでも入手可能だし、セカンドソース品を買うなら音質の点で 2SC536 / 2SA608 を選んだほうがよい。これらの品種を使えない高圧回路なら Onsemi(米国) の KSC1845 / KSA992 がある。2SA6082SA992(KSA992 のオリジナル)については、それぞれまだ三洋、NEC のオリジナル品が手に入る。

「特性の似たセカンドソース品」では困る、まったく同じ仕様じゃないと採用できない、という品種指定の場合は、例えば東芝2SC1815/2SA1015 なら、KEC(韓国) の KTC3198/KTC1815KTA1266/KTA1015 が型式は違うが同じチップを使用していて、TO-92型で、現行品で chip1stop で入手できる(7円@2,000個)。東芝製の家電では 1990年代から使われていたので、実績は十分と考えられる。

日本製トランジスタの入手性が良かった頃は入手難だった海外品種(2N~、BC~)が、代替品として販売されるようになってきているが Vceo : 100~160V の中電圧品種というのは日本製トランジスタ特有の領域で、海外製品種だと 2N5550/2N5551 (もしくは、セカンドソース品の KSC1845/KSA992 など)しかない。海外品種はピン配置が EBC もしくは CBE となっている品種が多いため、とても使いづらい。Onsemi の品種の内、元FAIRCHILD製のものは日本製各社のトランジスタに比べ、ノイジーで、fT が低く、Cob が大きい傾向がある。同じ型式でも PHILIPS製(現NXP)などは品質が良い。ただし Onsemi の元FAIRCHILD製の品種でも、型式が KSC、KSA で始まっているものは元SAMSUNG製で品質が良い。

三洋/Onsemi 2SC2362K / 2SA1016K2SC3330 / 2SA1317ローム 2SD786 / 2SB737。 東芝 2SC2458イサハヤ電子 ISC3244AS1 / ISA1284AS1Jiangsu Chanjiang C945 / A7332SC1815 / 2SA1015NEC 2SA988





東芝 2SC2458-Y。マーキングは C2458 / Y OF。2-4E1Aサイズ(TO-92小型版)

音質などのファクターを除けば、定格的にはどの品種でも使えるような回路が多いと思うが、定番品だった型式と、2023年現在でも入手可能そうな型式をリスト化した。なお、同じ型式のセカンドソース品を含む。

NF特性(ノイズ)については各社で測定条件が異なるので注意が必要。オーディオ用品種では概ね、Vceo : 6V、Ic : 0.1mA、f : 1kHz、RG : 10k を測定条件としていることが多いが、セカンドソース品だと他のチップを流用している関係で違うことがある。スペックが優秀とされる日立2SC1775Aは NF : 1.5dB(max) と数値がとても優秀だが、測定条件が Vceo : 5V、Ic : 0.05mA、RG : 50k と他社品よりきびしい条件で測定されている。





NEC 2SC1845 の NF特性

上記は、NEC 2SC1845 のデータシートに掲載されている NF特性のグラフで、一般的な測定条件で測定すると、測定限界を下回る、NF : 0.5dB未満となってしまう。日立 2SC1775A と同じ測定条件に近いところをグラフから読み取っても、やはり 0.5dB付近になる。max は typ の 2~10倍程度になるので、これを比較して NEC 2SC1845 と日立2SC1775A のどちらのほうが低ノイズかは評価できない。低ノイズといえば定番品種は東芝2SC2240 だが、データシートに記載された NF : 4dB の測定条件は Vceo : 6V、Ic : 0.1mA、f : 1kHz、RG : 100R と条件が他の品種より厳しいもので、上記の 2SC1845 で同条件をひろうと約 8.0dB となっていることから、2SC2240 は 2SC1845 より(Vceo : 6V、Ic : 0.1mA、f : 1kHz の条件下では)低ノイズであることがわかる。





NEC 2SA992 の NF特性

NEC 2SC1845 のコンプリ品種、NEC 2SA992 のデータシートに掲載されている NF特性のグラフだが、全体的にノイズの値が小さくなっていることがわかる。東芝2SC2240 のコンプリ品種、東芝2SA970 も同じ条件で NF : 3dB と低くなっているが、この条件を 2SA992 のグラフからひろうと約6.5dB となり、いずれも NPN品種より低ノイズであることがわかる。

低ノイズ品をうたっていないものでも、現代のバイポーラトランジスタの素子単体のノイズ特性は実用上、品種が問題にならないレベルで低くなっており、回路として組んだ場合は信号源抵抗(測定条件の、RG に相当)から発生するノイズのほうがケタが大きいため、オーディオ帯域で使用する前提なら選定においては考慮する必要はない。信号源インピーダンスが 100オーム以下、ごく少レベルの信号を取り扱う場合などは考慮する必要が出てくる。(マイクアンプ初段、フォノアンプ初段など)

NPN





ROHM 2SC1740S-S。マーキングは C1740 / S.S E。SC-72サイズ(TO-92S)

2023年現在、入手性、性能からオススメなのが低電圧低雑音用だと ROHM 2SC1740S(コンプリペアは 2SA933S)。Vceo ≦ 50V、Ic ≦ 150mA、Pc ≦ 300mW と TO-92 の標準的な仕様ながら、Cob : 2.0pF(typ)~3.0pF(max)、fT : 180MHz、NF : 1.0dB と非常に優秀。このクラスの横綱、NEC 2SC945(廃盤品)に匹敵する。

2SC945 のセカンドソース品はたくさんあるものの、いずれもオリジナルより性能が劣る(中身は東芝2SC1815 のセカンドソース品や、2N3904 などのチップを流用している)ので、セカンドソース品はオススメできない。TO-92 を小型にした、TO-92S だが、Pc も同じなので実用上は同じ。後述の Onsemi KSC1845 より安くて性能がいい(特に hfe の Ic 依存が少ない)ので、万能でどこでも使える。共立エレショップで 8円。

Jiangsu Changjiang(台湾)、MCC Semi(米国)、SeCoS(台湾、ドイツ)、Foshan Blue Rocket(中華人民共和国)などでもセカンドソース品が作られている。





三洋(Onsemi) 2SC536-E。マーキングは 536 / E 0J。SC-72サイズ(TO-92S)

ROHM 2SC1740S が手に入らない時は、オーディオ用の定番品種、三洋 2SC536 のセカンドソース品、Jiangsu Changjiang 2SC536(コンプリペアは 2SA608)。Vceo ≦ 30、Ic ≦ 100mA、Pc ≦ 400mW と定格は一般的で、Cob : 3.5pF(typ)、fT : 100MHz とこちらも性能は優秀。秋月電子通商で 5円。

Jiangsu Changjiang 以外にも、WEJ(中華人民共和国)、Foshan Blue Rocket(中華人民共和国)などでもセカンドソース品が作られている。

あと、このクラスだと イサハヤ電子 2SC5398、2SC5395 が現行品としてカタログに載っているが、取扱店が見つからない。

メーカでの生産品の設計など、どうしても現行品しか採用できない場合、KEC KTC1815 がある。最低発注数が 2,000個。





Onsemi KSC1845-F。マーキングは JCC1 / 845F / N37。TO-92サイズ

中電圧低雑音用だとこのクラスの横綱 NEC 2SC1845 のセカンドソース品、Onsemi/FAIRCHILD KSC1845(コンプリペアは KSA992)。Vceo ≦ 120V、Ic ≦ 50mA、Pc ≦ 500mW の定格で、Cob : 1.6pF(typ)~2.5pF(max)、fT : 110MHz の性能をコピーできたいのがすごい。この性能で使えない箇所はないので、価格さえ許容できるなら場所を選ばず使える。秋月電子通商で 15円。





イサハヤ電子 ISC3244AS1-E。マーキングは 244 / 97E。TO-92Sサイズ

価格が高いところがちょっとネックなものの日本製の半導体という意味では、三菱電機 2SC3244 の小型版、イサハヤ電子 ISC3244AS1(コンプリペアは ISA1284AS1)もオススメ。Vceo ≦ 100V、Ic ≦ 500mA、Pc ≦ 600mW と電圧よし、電流よしの定格。性能面では Cob : 6.5pF(typ) がちょっと気になるものの、AF領域ではほぼ関係ない数値だし、fT : 130MHz も優秀なので杞憂か。サイズは TO-92 の小型版、TO-92S。秋月電子通商で 40円。

イサハヤ電子 ISC3244AS1 でも電流面で不安があるような用途なら、東芝2SC2120 のセカンドソース品、Jiangsu Changjiang 2SC2120(コンプリペアは 2SA950)。定格が Vceo ≦ 30V、Ic ≦ 800mA、Pc ≦ 600mW で、性能面では fT : 100MHz(本家は 120MHz) と十分。秋月電子通商で 8円。

NPN の品種一覧




PNP

※PNP の定格、性能を表す時、本来ならコレクタ電流(Ic) などは、コレクタからエミッタの方向へ流れるので、符号がマイナスとなるが、読みづらいのですべて絶対値で表記する。大なり小なりも同じ。

全体の傾向として、NPN に比べて Cob が大きめ、fT が低め、雑音係数が低めとなる。





ROHM 2SA933S-R。マーキングは A933 / S.R E。SC-72サイズ(TO-92S)

2023年現在、入手性、性能からオススメなのが低電圧低雑音用だと ROHM 2SA933S(コンプリペアは 2SC1740S)。Vceo ≦ 50、Ic ≦ 100mA、Pc ≦ 300mW と TO-92 の標準的な仕様ながら、Cob : 4.0pF(typ)~5.0pF(max)、fT : 140MHz と非常に優秀。このクラスの横綱、NEC 2SA733(廃盤品)に匹敵する。2SA733 のセカンドソース品はたくさんあるものの、いずれもオリジナルより性能が劣る(中身は東芝2SA1015 のセカンドソース品や 2N3906 などのチップを流用している)ので、セカンドソース品はオススメできない。TO-92 を小型にした、TO-92S だが、Pc も同じなので実用上は同じ。共立エレショップで 8円。

ROHM 2SA933S が手に入らない時は、三洋 2SA608 のセカンドソース品、Jiangsu Changjiang 2SA608(コンプリペアは 2SC536)。Vceo ≦ 30、Ic ≦ 100mA、Pc ≦ 400mW と定格は一般的で、Cob : 7.0pF(typ)、fT : 180MHz とこちらも性能は優秀。共立エレショップで 8円。

あと、このクラスだと イサハヤ電子 ISA1995AS1、ISA1993AS1 が現行品としてカタログに載っているが、取扱店が見つからない。

メーカでの生産品の設計など、どうしても現行品しか採用できない場合、KEC KTA1015 がある。最低発注数が 2,000個。





NEC 2SA992-E。マーキングは A992 / EA48C。TO-92サイズ

中電圧低雑音用だとこのクラスの横綱 NEC 2SA992 のセカンドソース品、Onsemi/FAIRCHILD KSA992(コンプリペアは KSC1845)。Vceo ≦ 120V、Ic ≦ 50mA、Pc ≦ 500mW の定格で、Cob : 2.0pF(typ)~3.0pF(max)、fT : 100MHz の性能をコピーできたいのがすごい。秋月電子通商で 20円。





イサハヤ電子 ISA1284AS1-E。マーキングは 284 / 98E。TO-92Sサイズ

価格が高いところがちょっとネックなものの日本製の半導体という意味では、三菱電機 2SA1284 の小型版、イサハヤ電子 ISA1284AS1(コンプリペアは ISC3244AS1)もオススメ。Vceo ≦ 100V、Ic ≦ 500mA、Pc ≦ 600mW と電圧よし、電流よしの定格。性能面では Cob : 11.0pF(typ) がちょっと気になるものの、AF領域ではほぼ関係ない数値だし、fT : 130MHz も優秀なので杞憂か。サイズは TO-92 の小型版、TO-92S。秋月電子通商で 40円。

イサハヤ電子 ISA1284AS1 でも電流面で不安があるような用途なら、東芝2SA950 のセカンドソース品、Jiangsu Changjiang 2SA950(コンプリペアは 2SC2120)。定格が Vceo ≦ 30V、Ic ≦ 800mA、Pc ≦ 600mW で、性能面では fT : 120MHz と十分。秋月電子通商で 8円。

PNP の品種一覧




小信号ダイオードはこちら

(続く)