エフェクタ製作初心者向けの電子回路解説

エレキギター向けのコンパクトペダル (エフェクタ) の同士が集まるイベントがあるとお誘いをうけ、ブースを出展してきた。




コレクションを展示したり、自作したエフェクタを頒布したりするブースが大半で、他のブースとネタ被りしないほうがいいだろうと思い、私は同人誌を作って持っていった。




内容としてはこのサイトで掲載している記事と同じで、写真などを解像度の高いものに差し替えて組版、製本、なんとかギリギリ (前々日の夜中) まで作業し、7冊の同人誌を頒布することができた。




相当にマニアックな内容なので手に取ってもらえなかったらどうしようという不安であまりたくさんの冊数を刷れなかったが、イベント開始と同時に多数の方にブースに来て頂き、午前中にはほぼ完売という盛況ぶりだった。




もっと事前に準備をしておけば (原稿を書いておけば)、印刷所に発注、キレイに製本したものを用意できたと思うが、なにしろ原稿を書き出したのがイベントの前々日。間に合わせるにはコピー本しかないので複合機で印刷したものを自家製本して完成させた。




私としてはもちろん売り物として持っていった同人誌を買って頂ければ出展代の足しになるのでうれしいが、出展の目的は同好の士と交流することである。ブースに来て頂いた方と少しずつお話させてもらったのだが、そこで気づいたある共通点があった。

私が主に回路系の話を書いているからだと思うが、「エフェクタを作ったみたいんだけど回路図などが読めない。どうやって勉強すればいいのか」という質問をされる方が多かった。

確かに考えてみれば、理系の学部などで専門的に勉強したとかではなければ、日常生活で電子回路なんて言うものの読み方を知る機会は無いのである。私自身も学部は理工学部だったが、専門は電子回路ではないのでもっぱら独学である。

エフェクタというのは電子工作の入門にとても向いている題材だと思う。通常、電子回路は求められる仕様を満たす回路を設計する必要があり、これをクリアするのは専門知識を持たない素人には難易度が高い。

回路が動いているかを確認するにも専用の機器を必要とせず、ギターとアンプに接続し、音が出ればとりあえず OK なのだ。さらに電源としてはだいたい 9V しか使わないので感電する恐れや、抵抗が焼けてしまう可能性、電解コンデンサが爆発する心配も少ない。

もちろん、より高度な回路を設計できる能力があったほうがなにかと便利だし、せっかく電子工作の世界に足を踏み入れるのであればその道に進んでいくことでより楽しみは増えると思う。しかし、まずは「動くエフェクタを設計する」ことまでを目標とし、この記事を読んだことがキッカケで「オリジナルのエフェクタを設計して製作して音が出た」という経験につながれば著者として冥利に尽きる思いである。

さて一般的に電子工作を始めようと思ったとき、まず多くの方はできあいの「電子工作キット」を買って組み立ててみることと思う。これは電子工作がどういうものかを体験するという意味ではとてもいいことだと思う。工具を揃えたり、手を動かす一歩を踏み出すという体験を味わうことができる。

しかし、多くの方はここで挫折するだろう。なぜかというとできあいの電子工作キットを組み立てるのは、パズルゲームをクリアするだけのことで、いくらゲームをクリアできたからと言ってゲームを作れるようになるわけではない。いま目指そうとしているのは、ゲームを作る側の人間になることなのだ。

電子工作キットで工具を揃え、手を動かすことを覚えた人の中には一定数、他の人の製作記を読んだり、ウェブなどで公開されている見本の基板を真似して「回路は理解できていないけど音が出る回路を工作できる」人が居る。

これも段階の一つとして否定しないものの、これも電子工作キットの延長線でしかなく、むしろ「音が出る状態に持っていくことができる」スキルを身に着けている分、まったくの初心者より不利かもしれない。一回、その手癖は忘れて欲しい。ウェブで公開されている回路の大半は無意味なパーツ、間違った配線、エレガントとは言えない配置であることが多く、そんなものを真似していても回路を理解できるようにならない。

電子回路の初学者が避けようとする「回路図」についても、私はそこをぜったいに省略しない。なぜなら、「回路図が使われるのはそれが便利だから」だ。楽譜が読み書きできなくても楽器を演奏することはできる。しかし、楽譜なしに理解するには誰かが演奏する音源が必要である。音源を録ったり、聴いたりするのはとてもコストが掛かる。これを「楽譜」という記号に落とし込むことで、多くの人と演奏を低コストで共有することができる。

回路図がわかると回路の理解が一気に進む。なぜなら回路を設計する人も作る人も、共通言語が回路図だからだ。回路図の問題点は設計者の意図するすべての要素がそこに描かれていないことだ。

読むのも描くのも技術者同士なのでそこには暗に共通認識がある。「描かなくてもわかるよね」というやつで、これが初学者が回路図を避けたがる原因でもある。

ただ単に描くのが面倒だから (無駄なコストだから) という理由が大きいと思うが、回路図が煩雑になってくると読みづらくなってくる。なので、伝えたい主題だけを大きく描いて、要らないところを省くという技術者のクセのようなものでもあると思う。

このあたりの回路図と実装の対比についても、なるべく図解や写真を交えて、初学者が理解できるようにすることが目標である。

もちろん本記事を読むだけで楽しんでもらってもまったく問題ない。しかしできれば、実際に手を動かして回路を組んでみて欲しい。ぜったいに動くような回路しか出てこないので、まずはパーツを揃えて同じように回路を作ってみる。パーツはなるべく具体的な型式、入手先を書くようにする。もちろん、執筆時点で手に入ったものが、読者の方が読んだ時点で同じように買える保証はない。しかし汎用的なパーツばかりなので、この記事を読んでいるのが 100年後(2126年) とかではなければまったく同じ回路が組めるはずだ。

電子回路の初心者向けの本では「ブレッドボード」という便利グッズがよく使われる。これを使うと回路を試作するときにハンダ付けを必要とせず、サクッとパーツを差し替えていける。ある程度の知識がある人が使う分には便利グッズであることに間違いないが、この記事の主なターゲットは初学者だ。回路を理解すると同時に、実際に手を動かすところもやるべきだと思うので、試作では主にユニバーサル基板を使う。そして、実際にパーツを配線し、ハンダ付けし、「完成した回路」にする。

回路の理解が進むと同時に、「回路を組む」という手技についても上達するので一石二鳥である。ユニバーサル基板は安いし、この先も一生使える。常備しておいて損はないパーツなので、これを機に手元に揃えて欲しい。




ユニバーサル基板にはさまざまなサイズ、規格のものがあるが、エフェクタで使うような回路で使いやすいのは、2.54mmピッチ、片面基板というやつだ。オススメは大手メーカ Sunhayato小型ユニバーサル基板 ICB-288 紙フェノール片面 47 x 72 x 1.6tICB-293 紙フェノール片面 72 x 95 x 1.6t だ。端まで使えて安い。ICB-288 が 1枚200円弱、ICB-293 が 1枚400円弱で、10枚入りの箱入りでも買える。どうせいつか使うので箱入りで買っておけばよい。




ほとんどの電子パーツ屋で Sunhayato の製品は販売されているが、大手電子パーツ通販屋の 秋月電子通商(秋月) では取り扱いがない。もし、秋月でパーツを揃える場合は代用として 片面紙エポキシ ユニバーサル基板 Cタイプ 72 x 47.5mm 銅はく仕上げ片面紙エポキシ ユニバーサル基板 Bタイプ 95 x 72mm 銅はく仕上げ がある。Sunhayato 製の約半額くらいの価格で売られている。似たような仕様だが、端っこの方のホールに差があるので、ギリギリで配置しようと思うと互換性がない。

ユニバーサル基板は安いので (2000年代なら 1枚 100円もしなかった)、無駄があっても贅沢に使っていくが、もしもったいないと思う場合は小さく切ることができる。この紙フェノールを使った基板はホールの真上にカッターを何度かあて、傷を付けてから折り曲げると、キレイに割ることができる。断面は 200番くらいの紙やすりでバリをとる。紙フェノールは植物由来のプラスチックのような素材なので取り扱いが安全である。

同じような安い基板に使われるガラスエポキシはガラス繊維をエポキシという樹脂で固めたものでこちらは切り離すのが少し困難だ。ガラスエポキシもそれ自体は安全な物質ではあるものの、削りカスを吸い込んでいしまうと肺の中で分解されずに蓄積されてしまう。加工時に削りカスを吸い込みたくないので取り扱いがじゃっかん面倒ではある。工作に使うなら、もっぱら紙フェノール製の基板がラクだ。

ニッパやハンダゴテ、糸ハンダなど基本的な工具は揃っているものとする。あとテスタは安物でも良いので必ず用意したい。アナログのテスタも使い方によっては便利なことがあるが、まず 1台だけ買うならディジタルテスタを手に入れて欲しい。

その他、必要な工具などは適宜、紹介していくのでとりあえず読み進めていただきたい。

題材としてどんな回路を作るか、しばらく考えてみた。電子工作の代表的な試作回路として、LED を光らせるだけの単純な回路、通称「Lチカ」がある。

誰が作っても間違いなく動く回路ではあるものの、この記事が対象としている読者層から考えるといささか単純すぎると思われるので省略する。もし、Lチカ回路を作ったことがないのであれば、すぐに製作例が見つかると思うので挑戦しても良いと思う。

せっかく作るのであればちゃんと音も出るし、実用になる回路がいいだろう。トランジスタを使ったファズは、パーツ点数は少ないものの設計も製作も初心者向けとは言えない。汎用性も高い Opアンプを使った、ディストーション、オーバドライブ回路をなるべくシンプルに実装する方法を考えてみる。




題材となる回路の案をひいてみた。まだ机上の上で設計しただけで実装していないのでこの回路がうまく動くかはわからない。

回路図の読み解き方を覚えてもらうことを目的としているので、通常は冗長と言えるような描き方をしている。上半分がエフェクタの回路本体で、下半分が電源部になっている。定数はまだ決まっていない。

回路の意味、どう動くのか、どう考えればこの回路にたどり着くのか、そういったところを解説しつつ、実装して音を出してみよう。




回路本体を見る前に、まずは電源部から手を付けよう。パーツがたくさん並んでいるが、それぞれの記号の意味、役割などを解説し、実際に定数を決めていく。

まず回路図の描き方、読み方の基本ルールであるが、線でつながったところは実際にパーツ同士が電気的に接続されており、電流が流れる。黒い丸でつながったところも、接続していることを示す。「線だけでつながったところでは常に同じ電圧になる」と覚えといて欲しい。これは後ほど、役に立ってくる。

電源部の下の方のところ、斜線で描かれたほうきのようなパーツ、GND につながったあと、線が消えてしまっている。これが基本ルール2。GND につながった場合は結線を省略することができる。

GND、アース、0V などと回路の中でいろんな呼び方をするが、これは回路を設計した人が「ここを基準にして設計しましたよ」ということを案に示す記号になっている。回路記号を書く場合は「GND」と書き「グラウンド」と読む (ただし口頭では大半の場合は、「アース」と呼ぶ)。回路中に多数出てくるため、便宜的にここは線でつながずに省略する、ということが当たり前になっている。




これはルールではなく慣習のようなものなので、この図のように GND の記号で結線を省略せずに、このように実線で結線しても良い。この回路図の描き方は間違ってはいない。ただし、慣習とは違う描き方をすることで読む人に対して「設計者はなにか意図があってこのように描いているのではないか?」という印象を与える可能性がある。どちらでもわかりやすい方で描けばいいだろう。




Battery 9V は電池を示している。006P という、9V が出力できる汎用の電池を示している。バーが長くて上にプラスの記号が描かれたほうがプラス、反対側がマイナスを表している。

C901 は電解コンデンサというパーツを使う。コンデンサは周波数の高い信号だけ電流が流れて、周波数の低い信号は流れにくい、もしくは流れないという特性がある。とても便利なパーツなのだが、価格が高くてサイズが大きい。また極性といって向きに指定があるため回路の中ではなるべく使いたくない。回路設計者の脳内では、どうやってこのコンデンサというパーツを使わずに回路を組むかを考えることになる。実は今回作るエフェクタの回路の場合、この C901 は省略しても動作に影響がない。しかし、今後、汎用的にエフェクタを作っていこうと考えた場合、この C901 が入っていたほうが便利なことが多いので、練習として入れてある。定数の 100uF / 16V についてはあまり重要ではない。手持ちのパーツ、実装する際のスペースに応じて柔軟に変えてよい。47uF / 16V220uF / 16V あたりが適当か。単位の uF はマイクロファラドと呼ぶ。容量を表す単位は本来、F ファラドだが、電子回路で扱うには大きすぎる単位のため、u (マイクロ、正しくはμ)を付けて、100万分の1 の単位として書くことが多い。

/ 16V というのはパーツの耐圧で、これを超える電圧を掛けるとパーツが壊れてしまう。この数値が高い分には回路的には不具合は無いが、価格が高く、サイズも大きくなってくるので 16V25V35V あたりが適当か。この部位に入れるコンデンサのことを「デカップリングコンデンサ」と呼ぶこともある。

C903 はフイルムコンデンサというパーツを使う。先ほども説明した通り、コンデンサは周波数の高い信号だけ電流が流れるという性質がある。しかし、C901 で使った電解コンデンサは、コンデンサとしての性能が少し低く、本来は流れるはずの周波数の高い信号が期待したほど流れない。フイルムコンデンサはこの欠点を補うために補助として入れてある。これも入れなくてもたぶん動作するが、入っていたほうが便利なことが多いので入れてある。定数の 0.1uF についてはあまり重要ではない。回路設計者のクセとして、0.1uF を選ぶ人が多いのでこの値としたが、0.022uF0.068uF あたりでも良い。ただ、電子回路ではよく使われるために 0.1uF が入手しやすく、価格も安いのでわざわざ違う値を使うメリットはない。

価格も安くてサイズも小さいので、逆に選択肢が多くてパーツ選定に悩みやすい。積層セラミックコンデンサ という種類が安くて性能が良いのでよく使われるが、個人的にオススメなのは ポリエステルコンデンサ(マイラーコン)。一応、耐圧もあるが 50V100V は当たり前にあるので気にしなくてよい。耐圧が高すぎると価格が高くなり、サイズも大きくなるので新しく買うのであれば 50V のものでよい。端子に極性 (向き) はない。

この C901C903 のように、両者の端子間同士がつながっている回路の部位を「パラる」と表現する。「パラレル接続する」の略称である。パラレルとは並列という意味だ。小学校の理科の授業でやった「並列接続」がここで出てくる。




IC1C というのはこの回路で使う Opアンプ(IC1) の一部を表しており、上のエフェクタ回路に A と B が出てきており、この C と合わせて物理的には 1つのパーツである。端子が 8個と多いので、回路図上ではこのように分離して描かれていることが多い。

見づらいだろうと思ってユニット本体の記号は省略したが、このように描いてもよい。

84IC1 のピン番号を示している。NJM4580 というのが IC1 につかうパーツの型式である。類似品でも動作する回路だが、入手製が良く性能が良いパーツなので採用した。エフェクタで多用される RC4558JRC4558 を改良したものでとても使いやすい。




R901R902 は抵抗器というパーツで、略して抵抗と呼ぶ。電子回路では多発する。昔はカクカクとした回路記号を使ったが、最近はこの四角のスタイルが多い。

抵抗器は周波数に依らず、流れた電流に応じた電圧を発生させるという特性がある。逆に言えば掛けられた電圧に応じた電流を流すとも考えられ、これが中学校の理科で習った「オームの法則」である。どんな複雑な電子回路であっても、すべて「オームの法則」どおりに動く。

抵抗器の単位は Ω (オーム) だが書くのが面倒なので省略することが多い。また、このような回路で扱うには単位が小さすぎるの、k (キロ) を付けて 1,000倍の単位として書くことが多い。1kΩ 未満の値を書くときは便宜的に、470R のようにΩの代わりに R を付けることもある。また、手描きの回路図では小数点を見落としがちなので、小数点の位置に単位を入れることがある。例えば、3.3kΩ3K3 と書いたり、1.2Ω1R2 と書いたりする。

いま、R901 の上側の端子は電池のプラス側とつながっているので、この部位の電圧は 9V になっているはずである。また R902 の下側の端子は GND につながっているので、0V である。

R901R902 は直列につながっている。「シリアル接続する」ので「シリる」と呼ぶのかといえば、それは聞いたことがない。右に伸びた回路を一旦無視するとして (※ 本来は無視できない)、R901R902 には同じ電流が流れている。オームの法則により、発生する電圧は流れる電流に抵抗値をかけ合わせたものなので、抵抗値が同じである両者には、同じ電圧が発生することが推測できる。

R901R902 の両端で発生している電圧が 9V なので、各抵抗器はそれぞれ 4.5V ずつの電圧が掛かっていることがわかる。これは回路を作った際に、設計値どおりになっているかをテスターを当てて確認していく。

このように、2本、もしくは 2本以上の抵抗器を直列につなぎ、欲しい電圧を取り出すテクニックを「分圧」と呼ぶ。今回は、2本の抵抗器に同じ定数を使って、ちょうど 1/2 の電圧を作り出したが、定数を任意の値に設定すると定数の比率に比例した電圧が得られる。

なお、定数が 33k を使ったことにはあまり根拠がない。多くの場合は 10k を用いる部位だが、この定数が小さすぎると電池の消費が速くなる。この程度の回路であれば、33k でも良いだろうという判断だが、このあたりは経験則に基づいており、いわば回路設計者のクセのようなものが出る部分でもある。

C902 の電解コンデンサについては C901 と同じ。また、C904 のコンデンサについても C903 と同じなので説明を省略する。




電源部の回路図に、発生するであろう電圧と電流を描き入れた。通常は回路図をみれば計算で出すことができる数値なので、これをわざわざ描き入れることはしないが、今回は初学者向けということで特別に描いてある。

(2026年7月執筆中)