エレキギターのインピーダンス小話

エレキギター界隈では機材間のインピーダンスに非常に無頓着なのが当たり前で、「なんとなく」ロー出しハイ受けさえしておけば ok というルールだけが守られている。

このあたりはピュア・オーディオでも同じで、インピーダンスが規格化されていないので、機器間のインピーダンス整合をとらずロー出しハイ受けで、「なんとなく」動いてる状態になっている。

ピュア・オーディオの場合は信号帯域が 20Hz~20kHz と信号回路的には低周波な上に、信号レベルも 1Vp-p程度とそれなりの電圧で送られており、機器間のケーブルもたかだか 3~5m 程度なのでこれでも不具合は出ない。

これが業務用のオーディオ(スタジオ、放送系、PA系)になるとケーブルの取り回しが数十m、ときに数百m となってきて、ロー出しハイ受けのままでは不具合が出るので、バランスの場合は 600オームでインピーダンス整合をとっている。アンバランスの場合、150オームになる。

エレキギターの場合は信号帯域はオーディオ帯域の中でもさらに狭い範囲になり、楽器なので周波数特性がフラットである必要も無いことからこの無頓着さが許されているとも言える。

それなのに、エレキギターをオーディオ系に接続する時は、DI というインピーダンス変換の仕組み(トランスを使ったパッシブ回路、半導体を使ったアクティブ回路)を使うなど、なんでそこだけ、とツッコミを入れたいところもある。マイクプリアンプに DI 端子(Instrument端子などと書かれていることもある)が用意されていることもあり、だいたい 150kオームくらいに設定されている。




いきなり回路図を出したが、これがないと続きの説明が難しいので簡単に説明すると、これはシングルのピックアップ1発、ボリュームポット1個、トーンポット1個、という構成のエレキギターの内部で配線されたパーツを回路図に落とし込んだものと考えていただきたい。

実際には、Fender Musicmaster、Bronco など一部の楽器を除けばエレキギターには複数にピックアップが載せられており、切り替えスイッチなども付けられているがこれらはこの記事では無視してかまわないので、あえてのシングル一発の回路にした。

ピックアップは本来、回路として大きな成分はコイルなので本来はインダクタンスを表記すべきだが、エレキギターではピックアップのインダクタンスについて言及されることはほぼ無く、DC抵抗値(DCR)に言及することが多いので図でも 5k と書いているが、これは DCR であってピックアップ本来の仕様とは関係ない。

これは交流で測定する必要があるインダクタンスやマグネットの磁力はアマチュアでは正確に測定することが難しく、配線にテスターを当てるだけでよかった DCR を便宜的に区別のために使っていると考えれば良いので、数値の大小だけが問題で 5k や 7.5k といった数値については意味を持たないと考えてほしい。なぜ DCR で代用できるかというと、ギター用のピックアップは概ね同じような大きさで作られていて線材の太さも同じ(AWS42程度)なので、インダクタンスは DCR に比較的比例している、という経験則に基づいたものであり、サイズや形が違えば比較はできないし、マグネットの磁力も無視した数値なので、やはり結論としてはあまり意味をなさない数値と考えて良い。

ポットには、250kオームや 500kオームがよく使われている。なぜ 250kオームや 500kオームなのかと言うとエレキギターは 1950年代に開発しており、当時の電気回路といえば真空管を使うのがが当たり前だった。

真空管は高電圧は得意だが、電流を流すのがニガテなので、回路全体を高インピーダンスで設計する。真空管を使った回路だと、250kオームや 500kオームといった(現代から見れば)高インピーダンスのポテンショメータを使うのが当たり前だったのである。

もちろん、当時のギターアンプも真空管で作っていたのでその入力部には 500kオームやそれ以上の抵抗器が使われている。

パーツの入手性や、後ろにつながったアンプの回路から考えた時、当時の最適解としては 250kオームや 500kオームのポットを使った回路になり、それがそのまま 70年経った現代でも使われていると考えて良い。

その後、1960年代以降になるとトランジスタを使った回路が民生機でも出回るようになり、ギターアンプもトランジスタを使ったものが登場。そしてギターとギターアンプの間にエフェクタを差し込むといった使い方をされるようになってくるが、エフェクタは時代的にトランジスタを使った回路で作られているので、真空管で作られた回路と違って低インピーダンスの回路構成になってくる。

ここで冒頭で述べた、ロー出しハイ受けのルールが出てくる。ギターの出力やギターアンプの入力のインピーダンスのバランスを変えたくないので各エフェクターもロー出しハイ受けで作るようにしておくことで、インピーダンスのアンマッチで起きる変なピークが可聴域で作られず、エフェクタを差し込むことによる音質の変化を極力防ごうとしている。

電子回路設計の専門家ではない人間が設計していた初期のエフェクタ、例えば Dunlop Fuzz Face などはこのルールを無視しているので、ギター直後にバッファなどを使わずに接続すると、ハイ出しロー受けの状態になってしまい、エフェクタの回路がフラットだったとしても、インピーダンスのアンマッチで周波数特性がうねってしまう。これはエレクギター界隈では「味」ということで受け入れられているので、楽しむ方のひとつなのかもしれない。

Fuzz Face の「味」を使うにはエレキギターと Fuzz Face の間にバッファを置いてはいけないので、チューナーやプリアンプ、ボリュームペダル、ルーパー、スイッチャーなどを挟み込むことはせず、エフェクターボードの先頭に挿入する必要がある。




もう一度ギターの配線に戻って、さきほどボリュームポットで書かれていた回路を、実際に使っている状態の等価回路で書き換えた。これはボリュームポットをマックスの状態にしたときの状態。トーン回路まで考慮に入れると面倒なので無視する。

ピックアップのインダクタンスが不明だが、線材の太さと巻数から考えると 1~5H くらいで、これは 1kHz のときにインピーダンスで 8~32kオームくらいに相当する。4kHz だと 25~125kオームくらいになる。

ギター本体からの出力インピーダンスは、このピックアップと、ボリュームポットの 250kオームの並列になるので、8k//250k = 7.8kオーム@1kHz ~ 125k//250k = 83kオーム@4kHz くらいと計算できる。

エレキギターはハイインピーダンス出しと言われながら、意外と低いように思えないだろうか?




次にこれが、ボリュームポットを 2時くらい、Aカーブ(オーディオログテーパー)なので、抵抗値でちょうど半分の位置のときの等価回路になる。

ピックアップと直列に 125kオームが挿入され、その合成抵抗と 125kオームが並列になる。さきほどと同じように計算すると、(8k + 125k)//125k = 64kオーム@1kHz ~ (125k + 125k)//125k = 83kオーム@4kHz くらいと計算できる。




これが最も出力インピーダンスが高くなるときの使い方で、ボリュームノブが 3時~4時くらいの位置と思われる。ピックアップのインダクタンスとの合成インピーダンスを計算すると、51kオーム@1kHz ~ 94kオーム@4kHz くらいになる。

後段に来るエフェクターの入力インピーダンスが、300k ~ 1Megオームであることを考えるともう少し出力インピーダンスを下げたい気持ちになる。

エレキギターの出力インピーダンスを下げる方法として簡単なのは、ポットを 100kオームなどに変えてしまうことだ。250kオームだったポットを 100kオームに変えるだけで、最悪パターンの場合はボリュームマックスの状態で、このときピックアップのインダクタンスとの合成インピーダンスは 8k//100k = 7.4kオーム@1kHz、125k//100k = 55kオーム@4kHz になる。これなら、後段のエフェクターの入力インピーダンスが 150kオームでも問題ないように思える。

ポットの数値を下げるという手法はあまり無いようで、実際に実装されているのがアクティブサーキットと言われるようないわゆるプリアンプをギター内に内蔵してしまう方法だ。

アクティブサーキットは単純な増幅回路なので、オペアンプを使ったものや FET やバイポーラトランジスタを使ったものが提案されている。




FET 1石、抵抗器1本、フイルムコンデンサ1本を使った超簡易なアクティブサーキット。電圧的な増幅は行っておらず、インピーダンス変換だけ行っている。実はエレキギターのピックアップの出力は、電圧だけ見れば 20~50mV、激しいピッキングの瞬間は 500mV ほど出ていてそれほど信号レベルが小さいというわけではない。マイクなどに比べたら、むしろ高いと言える。

JFET はイサハヤ電子の 2SK2881-D が入手しやすいと思うが、この手の回路では東芝2SK30ATM-Y(2012年生産終了) がよく使われる。この回路では Idss は小さいランクのほうが良い。

こんな簡易な回路でも、これを入れるだけで出力インピーダンスは 300~400オーム(単位は kオームではない)になるので、後段のインピーダンスについて考えなくてよくなる。

電源スイッチが無いので常に電流が流れているが、この回路で消費される電流はたかが 0.1mA 程度なので、006P電池の容量が 500mAh だとしたら、5,000時間動作する。これは約200日に相当するので、電池は 24時間入れっぱなしにしておいて、半年ごとに入れ直せば良い。




半年ごとであっても電池を入れ替えるのが面倒だ、という場合にピッタリの素子がトランスで、まさに今回のようなインピーダンスの変換を目的として作られている。

サンスイの ST-12A は、100k : 1k のトランスで、巻線比が 10:1 なので使いやすい。このトランスを入れることで、出力インピーダンスを 1/100 に下げることができる。巻線比が 10:1 なので出力レベル(電圧)は 1/10 に下がってしまうが、ハイゲインは後段に来る半導体式アンプ(エフェクタを含む)が得意とする分野なので半導体回路でゲインを上げてしまえばよい。

実はこの回路はパッシブDI と同じなので、このトランスを組み込んだギターを使った場合は、外付けの DI は不要になる。マイクアンプでも Hi-Z回路が用意されている場合は、 DI入力につながず、マイク入力(Hi-Z)に接続しても良い。マイクアンプの Hi-Z入力はだいたい 1.2kオームくらいになっている。

(続く)