エレキギターのエフェクタの電源部

エレキギターで使うコンパクトエフェクタの多くは、外部DCアダプタから供給される 9V、もしくは筐体に内装する 006P電池の 9V で駆動するように設計されている。

エフェクタ内部では、古典的な単電源回路を使うことが多いので回路上必要なバイアス電源を内部で生成しており、そのバイアス電源の電圧は、1/2 VCC とする設計になっていることが多い。




これはよく見かける電源部の回路を簡易的に書いたもので、006P電池と DCジャックは、DCジャックにプラグが挿入されている場合は DCジャック側を、挿入されていない場合は 006P電池を使うように設計しているため配線が複雑になっているが、今回の本題とは関係ないので気にしなくて良い。また、インプット端子にシールドケーブルが刺さっていない時は電源を切るように工夫してあり、このため TSフォーンプラグ(いわゆる 1/4モノラルプラグ)ではなく、TRSフォーンプラグ(1/4ステレオプラグ)用のジャックを使って、電源部と GND を短絡させるようにしてある。

最初に挿入されているダイオードD1 は、DCアダプタが逆接続されたときに短絡するようになっていて、多くのエフェクタではセンターマイナスの DCアダプタを使うようになっているが、ユーザが間違えて汎用品のセンタープラスの DCアダプタを接続したときに、エフェクタ側の回路を防護するようになっている。逆接続してダイオードを短絡させることで、DCアダプタ側の安全回路が作動するはずだが、ヒューズを使っていると復帰できないので、古い設計のエフェクタだと電源回路に直列にダイオードが挿入されていることもある。

電解コンデンサ C1 47uF でデカップリングしたものを、VCC(約9V)として取り出し、R1 10k と R2 10k で分圧したものを C2 47uF でデカップリングして、VBB(約4.5V)として取り出している。

基本的にはこの回路で不具合が出るようなことはないので、自作エフェクタ界隈や、ブティック系工房のエフェクタでもこれと同様の回路が電源部として使われているようだ。




基本型の回路では、DCアダプタの逆接続には対処できたが、電圧間違い、特に高電圧に対して対策されていないのでユーザが間違えて 24V などの電圧の DCアダプタを接続してしまった場合は回路全体が壊れてしまう可能性がある。

ちょっとした工夫によって対策を行った回路が上の回路図の通り。基本型では D1 に通常のダイオードを使っているが、これを 12V程度のツェナーダイオードに置き換えている。このツェナーダイオードの両端は 12V程度に保たれるので以後の回路は高電圧が掛かることはない。

それでは逆接続の場合はどうなるかというと、そもそもツェナーダイオードは、構造的には逆耐圧が極端に低いダイオードというだけなので、逆接続の場合は通常のダイオードと同じように Vf(約0.6V) を超えると電流が流れる。




これは最近の BOSS製エフェクタで使われている電源部を元にして、デバイスを変えたり回路を少し簡素化させたものだ。電源部の先頭に、P-ch MOS-FET が挿入されている。

これはハイサイドスイッチと言う逆接続防止の役割を持った回路で、詳しい動作原理は省略するが、ゲート(3番ピン)に掛かる電圧が、ソース(1番ピン)の電圧より低い場合だけ、電流が流れる。正常に接続されていればゲートは R3 330k を介して GND にプルダウンされているので電流が流れるが、もし逆接続が発生する場合、ゲートはソースより 9V ほど高い電圧になるので電流が流れない。

P-ch MOS-FET を使うメリットはオン抵抗が非常に低い(1オーム未満)ので、挿入することによるデメリットがない。

次の R4 3.3k、C3 47uF、Q2 2SC2120、ZD1 11V で作った回路はリプルフィルタという回路で、DCアダプタから送られてくる電流にノイズが載っている場合、少し軽減させることができる。ZD1 を使うことで、高電圧がかかった場合でも、以後の回路には設計値以下(この場合だと、10V程度)までの電圧しかかからない。

少しデバイスが増えるものの、この構成で作っておけば逆接続も、高電圧も対策できるので、エフェクタを自作するときに使いやすい回路と考えられる。電源部の決定版と言っても良い。




これは高級オーディオ機器でよく使われる、アース電位を自動で低位に保つ回路を応用したもので、DCプラグにセンターマイナスだけでなく、センタープラスのものを挿入しても正常に動作する。

D2 はブリッジダイオードという素子で、本来は整流回路に使うための素子だが、こうやって接続することでプラスマイナスどちらか不定の回路から、欲しい向きの電圧を得ることができる。内部的には汎用品のダイオードが回路記号の通りに接続されているだけなので、余ってる汎用のダイオードで作ることもできる。

デメリットとしては、回路に必ずダイオードが入るので、Vf による電圧降下が避けられず、それも 2本通るので Vf x 2 だけ電圧が下がる。通常の PN結合のダイオードを使ってしまうと、0.6V x 2 で 1.2V の電圧を無駄にしてしまうので、ここはショットキーバリアダイオードを使ったブリッジダイオードを選びたい。ショットキーバリアダイオードなら Vf が 0.2V 程度なので、2本合わせて 0.4V 程度のロスで済む。

0.4V のロスすら許容したくないということになれば、MOS-FET のハイサイドスイッチを応用した回路も考えられるが、P-ch MOS-FET 2石、N-ch MOS-FET 2石の計4石が必要になるのでコストを考えるとそこまでやるかは悩ましいところではある。

(続く)