エレキギターの代表的な機種である Fender Stratocaster (以下、ストラト)だが、定番機種にも関わらず疑問に思ってることがある。ウェブで公開されている載らの電気系の配線図が、ことごとくおかしいのである。
楽器をプレイヤの好みに合わせて配線を様々に改造することはあるが、それでも多くの人が使う基本的な配線というのは存在する。これを知りたいと思いウェブを検索すると多数の配線例が出てくるが、なぜかこれがほとんど間違っている(電気的におかしい)のである。
ストラトでは 3 つのシングルピックアップを使い、これを 3way のセレクタースイッチ(DP3T / 2P3T, double-pole / 3-throw, 双極3投)で選択し、250kA のマスターボリュームを介して出力する。これだけなら、誰が配線してもほぼ同じ配線にしかならないが、ストラトの場合はトーンコントロールが、ネック側ピックアップとミドル側ピックアップで独立して設定できる、1 vol 2 tone 構成になっており、これが複雑怪奇な配線を生み出す原因になっている。なおトラディショナルな配線ではブリッヂ側ピックアップのトーンコントロールは無効化されている。
こちらは 1993年製Fender Japan Stratocaster ST54-75 RV の配線の様子。本家アメリカ製の Fender とは違ったパーツが使われているが、配線などはほとんど変わらないと思われる。
写真だと反射して見づらいが、セレクタとポット類の裏だけアルミ製のシートが貼ってある。シールド効果を狙っているのかもしれないが、この厚みではシールド効果はほとんど期待できないばかりか、アース電位になっているとアルミがアンテナになってしまい、余計にノイズを拾ってきそうな気がしてスッキリしない。そもそも電装系をシールドするためには、四方八方を囲まないと意味がない。他のメーカだとキャビティ内に導電塗料を塗ったりしている楽器もあるみたいだが、この楽器はその処理も一切ない。まあ、たとえ導電塗料を塗ったところで、それもシールドの効果なんてほぼ期待できないと思う。
よく考えたら電気的な役割はなく、組立時にハンダが飛んでもピックガードが焼けないようにするための物理的なガードなのかもしれない。
Fender の純正品ではないが、Van Zandt のストラトタイプの楽器の配線の様子。配線材にクロスワイヤー(Gavitt製と思われる)を使うなど、芸が細かい。トーン回路用のコンデンサは Fender のフイルムに似た Van Zandt 0.1uF。
ピックアップの切り替えに使う 3 way のセレクタースイッチだが、伝統的に DP3T のタイプが使われているがこれも回路的には意味がなく、もっとシンプルな SP3T / 1P3T(single-pole / 3-throw,単極3投)のスイッチで事足りる。なぜ、DP3Tスイッチが使われているかというと、トーン回路でネック側ピックアップ用とミドル側ピックアップ用のコンデンサを共有するためだ。
回路図にアレルギーのある方も少なくないと思うが、実体配線図だと違いが説明しづらいので、なるべく実体配線に近い配置で回路図を描いてみた。通常は回路図をこのように描くことはあまりないが、ピックガードを裏から見たときの配置になるべく近づくようにパーツを配置してある。以後、標準型 と表記する。
ネック側ピックアップ用のコンデンサと、ミドル側ピックアップ用のコンデンサを共有せず、それぞれ専用に用意した場合の配線例。標準型と比較しやすいように、最低限の配線変更だけ描き込んでいるが、これはイマイチなので実際にこのように配線することはない。
上記と同じ回路を私ならこうやって配線するだろうな、という例。絶対的な正解とは言わないが、少しでも電気回路をわかってる人なら、概ねこの回路に収れんすると思う。コンデンサが 2個必要になる点はネガティブな要素だが、スイッチの接点を減らせること、コンデンサはネック側ピックアップ用と、ミドル側ピックアップ用で別のものを使えるので容量を変えたり、銘柄を変えることができるメリットがある。
この回路を活かして、なんとかコンデンサを共有する良いアイデアはないか、考えてみた。
コンデンサを共有する回路を作りたい場合、自分ならここに挿入したくなるな、ということで配線を変えたもの。以後、改良型とする。
標準型との違いはトーンコントロール用のコンデンサがアース側から反対側へ移動しただけで、電気的な回路はまったく変わらない。標準型だとコンデンサをポットに密着させることができるので、振動でブラブラしないというメリットがある。ただし、キャビティのサイズが制約となって取り付けられるコンデンサが限られるというデメリットもある。ハーメチックシール型のオイルコンデンサなどは大型のものがあって、取り付けたを工夫する必要がある。コンデンサの挿入位置をセレクタより前に移動させることで、マスターボリュームの 3番ピンとセレクタの間の空間にコンデンサを収められるメリットがある。ただし、コンデンサによっては空中でブラブラしてしまうので良し悪しとも言える。
配線を変える最大のメリットが、各トーンポットの筐体のアースがちゃんとアース電位になる、という点で標準型だとどうしてもトーンポットが DC的に電位浮いているのが気になったが、そこが改善されている。前に掲示した、Fender Japan の配線をよく見てもらうとわかるが、トーンポットの筐体と、トーンポットの端子の間が配線されていない。当然、電位が異なるのでここを配線することができない。
改良型の場合は、各トーンポットの 1番端子と同電位になるため、端子と筐体を配線することができる。
高インピーダンスで信号が流れる回路で信号線とアースが撚ってないのが気になるので、できる範囲で信号が流れる線はアース線と撚ってある。
セレクターを通った信号はマスターボリュームを通り、出力用の TSフォーンジャックに接続する。マスターボリュームからコンデンサ(写真では 0.022uF x 2 = 0.044uF)を経由してセレクターに戻り、各トーンコントロール用ポットへ接続する。
トーン用ポットを通った先はアースになるので、アース点となるマスターボリュームの筐体へ配線するアース線を流用して、信号線に這わせてある。セレクターから先はピックアップから来た信号線に這わせてある。
アース点となるマスターボリュームの筐体では、各方面からのアースのハンダを分けてある。こうすることで、配線の変更が必要になった時に、個別に作業することができる。
コンデンサは、手持ちで 0.047uF (473) の良さそうなパーツが無かったので、0.022uF (223) をパラレルに接続してある。配線材は黒がアース電位のもの。
改良型の配線のもうひとつのメリットが、コンデンサを簡単に取り替えることができること。コントロールポットに抱かせていてももちろん取替はできるものの、2個のポット間を渡す配線が必要なので、最低でも 3箇所のハンダをやり直さないといけないが、改良型の場合は両側2箇所のハンダ作業だけで取り替えることができる。
回路図を見てるだけだと気づけなかったが、標準型では隣り合うポットの間をコンデンサの足を使って渡し配線する。この配線により、ポットの供回りを防止する効果を期待している、という説を聞いて一理あるな、と思った。しかしその効果を狙うのであれば、ボリューム用ポットにもなんらかの対策が欲しいところで、あまり操作することのないトーン用ポットに対策をして、使用頻度の高そうなボリューム用ポットが無対策というのも矛盾を感じるので、こじつけ感も否めない。
(続く)