6BM8S アンプの製作

デザイン

私はアンプの製作記を読むときにいつも気にしている事があります.それは製作記がどのような構成で書かれているか,という事です.一番多いのは,なぜアンプを作ったかの理由について軽く触れ,そして設計に入ります.設計では,デザイン,回路,加工などがありますが,この記述の順番が面白いのです.

概して,回路主義の人は,まず回路図を示し,この回路図を見ながら設計意図について解説するように話を進めます.製作記の多くがこの系統です.

私の場合,設計はまず回路ありきなのですが,回路設計と並行してデザイン,ケースの図面起こしも行います.これは,たとえ回路的には理想でも,実際に製作する際に不具合が生じる事もあるからです.例えばコンデンサの大きさ,数,線の引き回しなど,回路図に無い設計も重要な点が多数あります.もちろんコストも並行して計算していますから,少しの妥協をして大幅なコストダウンを図ったり,一方多少の奮発で贅沢をしたりもします.しかし,私の場合バラックで音質を検討する,という事は行いません.回路の動作点について検討するために用いる事はあっても,それで音楽を聴くことはありません.何故かというと,ワイヤリング,部品,配置,筐体のいずれを変えてもアンプの音質というのは変わってしまうのです.だから,バラックでの音質検討などなんの意味ももちません.

さて本題のデザインですが,回路設計と併せて検討が必要な事項に,モノラル構成かステレオ構成かを検討する必要があります.もちろん,双方メリット,デメリットがあるので,どちらが決定的とも言えませんが,設計するアンプ毎に適した方式を選択します.私は図体の大きなアンプが嫌いです.できるだけコンパクトにまとまった方が良いのですが,ここでもコンパクトをどう考えるかが問題です.例えば,モノラル構成とすればモノラル分だけの部品でいいので,ステレオ構成よりは小さくなるでしょう.しかし,モノラルではアンプが2台必要で,この2台を併せるとステレオ構成より小さくする事は難しいでしょう.また,オーディオルームでもアンプが2倍の数増える事になります.一方,ステレオ構成では部品を共有化できたり,配置を工夫する事で単純にモノラルを倍にするよりは小さくできます.しかし,2回路分が1台に入るわけで,当然図体は大きくなります.これではどちらがコンパクトかは価値観になってきます.私の場合,コンパクトの定義は,球などの部品が乱立しない事になります.今作の場合,回路は6BM8一本だけですから,整流管を併せてもステレオ分で3本のMT管だけで良く,ステレオ構成でも乱立といった危険はありません.また,使用電流も少ないので,整流管を共通化する事で回路が簡素に済みますし,コスト的にも有利です.

次に,部品配置も含めたデザインですが,日本人は高級品については,舶来品のコンプレックスがあるのかシンメトリを好むような気がします.確かに,センスの良いシンメトリは気持ちのいいものですが,下手なシンメトリほど見苦しいものもありません.私はどちらかというと,機能美を好むせいか,無理なシンメトリで背伸びするようなデザインより,部品を適材適所に配置した自然なデザインが好きです.WE-91QUAD IIのような,実用的なデザインが好きです.

今作でも,ワイヤリングを含めた部品配置で無理が無いような自然な構成を元にデザインします.左側に電源部を集中し,右側に増幅部を配置します.電源部は発熱する整流管と熱に弱いアルミ電解コンデンサは離れた位置にします.トランス類はリーケージフラックスの多い面があるのでそれも考えて配置します.ボリュームは,背面にスペースが無いこと,単体でも使えるようにと前面へ持ってくるので,ここから近い位置に初段が来るようにするため球は前面に配置します.本当は,火傷防止や放射放熱,入力端子との距離を考えると,球は最後部に配置する方が好ましいのですが発熱の少ないECL82/6BM8なのでこの点は妥協する事にします.結局,前面に全ての球が並び,後ろにトランス,という普遍的なデザインになりました.

このコンテンツは 2003年に別のサイトに掲載したものを加筆、修正して転載しています。